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2006年10月24日

シリーズ:相続の現場から〜ギリギリの遺言書 第二回

田中さんの自宅に伺った私は、早速父親と面会をした。
「初めまして、行政書士の竹内です。お父様が遺言書を遺したいということで伺いました。」
名刺を差し出すと、父親は、「遠いところご苦労様です。」名刺を受け取った。

まず私がしなければならないことは、本当に父親が自分の意思で遺言書を作成する意思があるのかどうかの確認をすることだった。もしここで会話につじつまが合わないようだと、この仕事は断らなくてはならない。そこで私は父親と二人きりにしてもらい、残したい遺言の内容を聞くことにした。
父親は複数の不動産を所有しており、その各々を子供たちに相続させ、かつ預貯金も子供に平等に分け、残りの株券などを含めた財産は同居している長男の田中さんに相続させたい、という内容を話してくれた。

声は少し弱々しかったが意思ははっきりしていた。長男の田中さんによると、父親の体調は日によって違いがあるとのことだ。しかし『これならば遺言書を作成することができそうだ』私は確信した。

私が法律に則った形で作成を手伝うことのできる遺言書には『自筆証書遺言』と『公正証書遺言』がある、という説明をし、それぞれの形で作成した場合の内容を話し合った結果、法的にもより確実な『公正証書遺言』を作成することに決めた。私は早速公正証書遺言作成の手配に取りかかった。

(つづく)

2006年10月23日

シリーズ:相続の現場から〜ギリギリの遺言書 第一回

このブログではこれまで主に財産相続や遺言書にまつわる法律解説を行ってきましたが、これからは「相続の現場から」と題して、私が実際に受任(仕事を受けること)した遺言・相続に関する仕事の内容や、それをベースにしたフィクションを書いていきます。(なお、行政書士には守秘義務が課せられていますので、話の内容や登場人物は実際とは異なります。)

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昼食の最中に携帯が鳴った。電話の主は以前私の相続の講演に参加してくれた田中さんだ。
「急ぎで相談したいのだけど明日にでも会えませんか。」
事情を聞くと同居している父親が遺言書を作りたい、と言っているのだが、ここ最近軽い痴呆の症状が出始めていて、症状が進むと父親の希望通り遺言書の作成ができなくなってしまう、とかなり切迫した電話だった。

民法では、「遺言者は、遺言をするときにおいてその能力を有していなければならない。(民法963条)」と規定されている。つまり痴呆が進行してしまって、自分の意思をはっきりと伝えることができなくないと遺言書は作成することができなくなってしまうのだ。
また、仮にそのような状態で作成された遺言書は、その遺言者の死後に、遺産相続人などその遺言についての法律上の利害関係者から「遺言無効確認」の申立を家庭裁判所にされ、結果その遺言が無効になるおそれもある。

父親の年齢は80歳。一刻の猶予も無い、と判断した私は、早速その日の夜に田中さんの自宅に伺うことを約束した。

(つづく)